人口減少に挑む共助の力 – 東北から空き家シェアの挑戦 by 渡邊享子
東北の地方創生に挑む、シェアリングエコノミー協会東北支部長の巻組・渡邊さんをゲストに迎え、空き家を活かすシェアビジネスの可能性を探ります。震災からの復興に向けた挑戦や共助の仕組みが生む未来とは?人口減少など地域課題を乗り越える最前線を、ぜひご覧ください。
スピーカー:渡邊享子
株式会社巻組
2011年、大学院在学中に東日本大震災が発生、研究室の仲間とともに石巻へ支援に入る。そのまま移住し、被災した空き家を改修して若手の移住者に活動拠点を提供するプロジェクトをスタート。2015年3月に巻組を設立。地方で資産価値の低い不動産の流動化を促す仕組み作りに取り組む。2022年 一般社団法人シェアリングエコノミー協会 東北支部長に就任。
公式サイト: https://makigumi.org/
スピーカー:上田祐司
一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事
(聞き手)株式会社ガイアックス 代表執行役。1999年、24歳で株式会社ガイアックスを設立し30歳で株式公開。 ガイアックスでは、「人と人をつなげる」のミッションの実現のため、ソーシャルメディア領域、シェアリングエコノミー領域、web3/DAO領域に注力。
公式サイト: https://www.gaiax.co.jp/
X: @yujiyuji
自己紹介・事業紹介
シェアリングエコノミー協会 代表理事の上田でございます。
シェアリングエコノミー協会を 運営している理事幹事支部長の皆さんに、シェアへの思いを聞いていく、今日は東北支部長でもある 巻組の渡邊さんに、お話を伺いたいと思います。
では、早速ですが、渡邊さんの自己紹介や事業紹介をお願いします。
私は株式会社巻組という会社を運営していまして、東北の宮城県石巻市に本社があります。
私自身は埼玉県の出身ですが、東日本大震災をきっかけに宮城県石巻市に移住し、事業を始めました。
石巻市は13年前の東日本大震災で非常に大きな被害を受けたところで、震災当時は全壊家屋が22,000戸もあり、本当に住むところがないという状態からスタートしました。
その結果、この10年間で人口が2万人ほど減ってしまい、今では今、空き家だらけになってしまっています。
そういった背景のなか、2015年に巻組という会社を立ち上げました。
地域で活動する人や、まちづくりに参加される方、あるいは東北の良さを気に入って住んでくださる方に向けて、住宅づくりをしていこうというのが創業の目的です。
同時に、不動産建築業界を見てみると、人口が全国的に減っているにもかかわらず、新築住宅をどんどん作っていこうという動きがあります。
不動産投資市場でも、都心のマンションを流通させるのがメインで、それ以外の物件はリスクが高くて 扱えないよねみたいなトレンドが強い業界です。
そういった中で「これからの時代、どんどん都心のマンションを買って、都心に住んでいくというのは本当に持続可能なのかな?」という疑問を持ち、もっと地方の戸建て物件を活用する方法があるのではないか、と考えています。このような事業は石巻だけでなく、全国の地方にとっても非常に大事なことだと思っています。
いま全国の空き家は900万戸にものぼりますが、これらを解決していきたいと考えています。
空き家の課題としては、特に田舎の場合、所有者さんが近くにいないなどの理由で運営が難しいことがあります。そのため、運営スキームと一緒に空き家を提供・運用していくことが重要だと考え、課題解決のサービスメニューをいろいろ立ち上げてきました。
住まいのあり方をアップデートしていきたいという思いのなか、現在弊社の主力商品が「シェアハウス」と「一棟貸しのゲストハウス」です。
“1日から入れるシェアハウス”というコンセプトで「Roopt」というシリーズ展開をしています。空き家をみんなでシェアして、新しいライフスタイルを考えていこうということを行っています。そのような中で、今、シェアリングエコノミー協会の東北支部長も務めさせていただいております。
シェアハウスや民泊の事業をされている中で、実際のお客さんとかと触れ合ったりもするのですか?
そうですね。 シェアハウスに入ってくださる方とは、頻繁にイベントをしたり、先程も管理の問題がありましたが、我々を含め所有者だけで 管理をしていると限界がありますので、入居者さんにも手伝っていただくということが、円滑にできるようなスキームを組んでやっていく、というところに力を入れてやっております。
元々、渡邊さんはそういう みんなと一緒に家作りや、まちづくりをしていく、みたいなことに興味があったのですか?
石巻に来る前の学生時代は建築や都市計画が専門だったので、色々な地方の地域に赴いて、DIYで空き家を活用したり みたいなことをしていました。
石巻に来てからも ボランティアの仲間達と一緒に、家がないという状態だったので、みんなで手を動かしながら、自分たちの気持ちの良い住まいを作っていくということは、すごく楽しいなと思って、そういう感覚を広げていきたいな、という気持ちも非常にありました。
震災の頃から地域に いくつかのベンチャー企業が立ち上がって、巻組さんもその中の一つだと思いますが、町が復興してきているのか? してこなかったのか?
こういったベンチャー企業の皆さんが 結構集まっている、集まっていないとか、その中で皆どんな会話をしているのか?とかを シェアしてもらえたら。
東日本大震災から十数年が経ち、その後もさまざまな災害が起こっていますが、当時はまだ、ビジネスとして社会課題を解決しようとか、ベンチャーが一斉に集まって課題を解決しようという動きは、あまり一般的ではなかったように思います。
どちらかというと、被災者の方々の生活再建を軸に支援することがメインで、あまりよそから企業が入れるという雰囲気ではなかったな、という記憶があります。
ただ、東北はもともと人口が大きく流入してくる地域ではありませんでしたから、やっぱり経済を立て直していかないといけないよね、地域の雇用を生み出さなきゃいけないよね、という意識が数年たつにつれて根付いていきました。
ベンチャーというほどではないですが、小さく色々立ち上げてみようという空気感もすごく出てきましたし、自治体も地域の担い手になる企業を増やしていこうという姿勢がずっとありました。さらに、2010年代の中盤くらいから地方創生の流れが出てくると、そうした動きが加速していったように思います。
最近では、漁業や魚網など、その地域のサーキュラーエコノミー系の事業ベンチャーが比較的大きい規模で立ち上がったり、世界にも進出していこうという企業が出てきたりしています。これは、この10年間の大きな進化だなと感じています。
東北支部について
なるほど。その流れで、今の東北支部の方を見ていただいているのですが、東北支部というのはどのような支部なのか?
どういう活動をしているのかも併せてご紹介いただきたいと思います。
私が東北支部長になってから、まだ2年ほどですが、東北支部の歴史を振り返ってみると、シェアエコ協会が立ち上がった当初、福島県の原発に近い南相馬市で活躍されていた皆さんの尽力が非常に大きかったと聞いています。
やはり、地域の経済を立て直していくうえで、CtoC(個人間取引)のビジネスや共助というコンセプトで事業を立ち上げることは、東北の中でも非常に重要な課題だったのだろうと思います。実際、その地域でベンチャーを起こしたり起業したりする方々が、この活動に大きく賛同してくださっていたそうです。
一方で、東北ではまだ「シェアリングエコノミー」という言葉がすぐにしっくりこないところもありますし、全国的に見てもベンチャーが多いエリアではありません。
そのため、東北の文化的な価値観から、どのようにシェアリングエコノミーを普及させていくか、日々試行錯誤しながらやっております。
そのような中で東北支部の特徴としては、仙台という中核都市だけでなく、東北6県それぞれに地区統括として6名配置し、地域ごとに小回りの利く活動を広げていこうとしています。特に最近は、山形県の西川町さんが全国的にも非常に先進的な「関係人口創出」の取り組みをされており、自治体さん自身もシェアエコ協会の本当に大事なキーパーソンとして 活躍してくださっているのが、今、東北支部の現状です。
実際、東北って言っても 大きいですもんね。
そうですね。正直、仙台から青森に行くくらいだったら、東京に行く方が時間距離だと近いみたいな、そんな感じの縦長の大きいエリアです。
大きいだけあって色々な事例がありますよね。今、挙げていただいたもの以外でも、秋田の五城目町とか。
そうですね。秋田の五城目町を拠点に活動しているシェアヴィレッジの丑田さんが、現在、秋田統括として加わってくださっています。本当にこの10年ぐらいで地域に根付いて、廃校や古民家を活用したコミュニティづくりなど、さまざまな取り組みを広げていらっしゃいます。さらに、シェアヴィレッジさんは山を切り開いて、シェアリングエコノミーで新しい村をつくる、みたいなことまでやられているので、東北は広くて人口が少ないからこそ、ダイナミックな活動ができるというのも 一つ面白いところかなと思っています。
今後、どんどん人口減少していく中で、東北での成功事例というのは より注目されるかなという気はしますね。
事業をやっている理由
少し話は戻って、巻組さんの事業の空き家活用というのも、本当にそういう意味では 課題先進部分の先進国ならではというか。その辺りの事業をやっている理由や、それのソーシャルインパクトみたいなところを聞かせて下さい。
空き家は今、全国的に広がっています。地域ごとに課題の違いはあるかもしれませんが、特に東北地方の空き家の現状としては、所有者さんが都市部に住んでいて「無料でもいいから手放したい」という方が多いほど、資産価値が大きく下落しているという実態があります。
さらに、日本全体の人口が急激に減っていることを考えると、これまでのように空き家バンクに載せて、これを買って定住してくれる人に引き継いでいこうということ自体に限界があるのではないか、と感じています。そこで、関係人口や交流人口の力を使って、使用需要を作っていくということが、非常に重要になってくるという風に思っています。
一方、社会情勢がいろいろ変化する中で、日本のインバウンド需要は現在とても盛り上がっています。インバウンドだけでなく、日本的な文化の一つのアウトプットである古民家や、それが低価格で購入出来て、DIYで直せるといった点が、海外の方々から注目され始めていると思うので、そういったところに非常に ビジネスチャンスを感じています。空き家を有効に活用して東北に新しいライフスタイルを作っていくということは、これから先も大きな価値を生む取り組みではないかと思い、活動を続けております。
全国的に空き家が増えてきて、普通にいったらひどい状態、ワーストケースになるかな、みたいな感じもします。そのひどい状態というのは関東圏に住んでいるとイメージがつかないですが、どんなワーストケースになりかねないでしょうか?
私たちが住んでいる石巻は、人口が10万人強ほどで、東北の中では比較的人口が集まっている地域かもしれません。それでも、集落や地域コミュニティの空洞化がはっきりと感じられます。たとえば、「向こう三軒、両隣が空いている」といった状況や、最近の新聞で「5世帯に2世帯は高齢者の一人住まい」と報道されていましたが、私たちの周りでは5世帯に2世帯どころじゃなくて、もう周りほぼ高齢者の方ばかりだよね、という実態があります。
実際に私が暮らしていても「携帯電話の使い方がわからない」といったり、若者が頼りにされるケースが多々あります。テクノロジーの力を活用していかなければ成り立たない、という時代に突入しようとしている中、人口減少の問題をとても深刻に感じますし、最近は能登の被災地の方々とお話する機会も増えてきましたが、やはり復興予算の出し方も、10年前とはだいぶ変わってきているように思います。
建物やインフラを整備して、これまでのコミュニティをそのまま再生するということが難しくなっている現状を考えると、新しい顧客や新しいビジネスだったり、そういう人の流れをつくっていかなければ、現実的に厳しいというのが、この10年で大きく変化したところだと感じています。
シェアへの想い
コミュニティがなくなるというのは本当に辛いことだから、もっとシェアできるようなコミュニティを作っていきたいとか、例えば、「建物がもったいないよね」とか、そういう課題なだけにビジネスチャンスとか、色々なものがありますが、渡邊さんの中心となる「シェア」に対する思いを、ぜひお聞かせいただけますか?
シェアに対する思いとしては、実は私自身、シェアリングエコノミー協会の支部長をやりませんかと言われたとき、まだピンとこない部分がありました。シェアリングエコノミーは、CtoCのビジネスをテクノロジーで活性化していくようなイメージを持っていたので、果たしてそれが東北の地域に馴染むのか、自分でも封落ちしないところはあったのですが、協会の皆さんからシェアエコ、「シェア」というのは 共助を促進する仕組みだという風に、協会の皆さんが説明されていて、東日本大震災を経験してきたこの地域では、それはとても重要なことで、生活を成り立たせることを考えると、一人では成り立たないと思うんですよね。公共交通の限界もありますし、東北は人口に対してとても広い空間を持っているので、それを維持しながら暮らしていくには、ある程度生活財や空間など、さまざまな資源をみんなで共有していかないと、リアルに成り立たない というところに関しては、東北は、シェアエコがすごく重要だと思います。そうした共助―みんなで困った時は、お互い様で助け合うという精神は、東日本大震災以降、東北に本来根付いてきたものなので、これを可視化していって、一つの仕組みにしていくことは、すごく重要なんじゃないかと感じています。
実際、事業を通して思うのは、元々地域にいた人たちだけでやっていくのは、もう東北では限界なんじゃないかなと思う時に、私達は、今、石巻にとどまらず全国でシェアハウスを展開し始めているのですが、例えば、東京のシェアハウスに住んでいる方々が石巻にも興味を持ってくださって、毎月3〜4日程度、石巻の物件をスポット利用して畑を耕したり、地域の児童施設でボランティアしたりしていて、それが「生きがいになっている」という声を聞くと、シェアエコやシェアという概念によって、空き家を越境的にさまざまな人が共有できる仕組みが生まれ、自己実現と共助が両輪で回り始め、地域が持続していくということに可能性や手応えを感じます。
そうやって「シェア」という切り口を使うことで、人材が流動化して地域の役に立っていく――これから、特に東北のような地域では、すごく可能性があることなんじゃないかなと思っています。
一つ間違えるとなかなか未来が見通せない地方において、手応えを感じられているというのは、非常に心強いなと思います。シェアを通して、コミュニティや、一人一人の自己実現を両立するのは素晴らしいことですよね。
法律や規制について
最後に協会の一つの活動でもありますが、国や法律規制、こういったことを どうデザインしていくかというのも、重大な課題だという風に思います。
この辺りで渡邊さんが 感じられることはありますか?
私は建築や不動産に関する事業をずっと手がけてきましが、やはり、お店を一つ出すにしても、民泊や旅館業を始めるにしても、法律の解釈が地域によって大きくばらつきがあるので、そうした問題はみんなで解決していかなければいけないと感じています。
特に地方では、既存の業界団体の力が強いことも多く、CtoCビジネス、たとえば私たちが取り組んでいるような「個人が空き家を運営する」スタイルを促進していくビジネスのような、個人が気軽に事業参入していくということが、難しい仕組みにどんどんなっていっているなということを、非常に感じます。法律の解釈が地域によって違ったり、独自の条例があったりするうえ、その地域ごとに守りたい産業や事業が異なるため、ばらつきが生じているのも現状です。
私たちも最近は全国展開を視野に事業を進めていますが、そうしたばらつきによって非常に難しい問題に直面しています。そういった課題に対して協会の存在があることで、各地域の状況やアイデアを共有し合い、知見を蓄積できるのは非常に大きいと思います。新たに事業を始めたい方々にとっても非常に大きな知見になると思います。
シェアエコ協会は、法改正にまで踏み込んで活動されていますが、仮に改正に至らなくても、知見が共有されるだけでも、新しい社会をつくろうとするベンチャーにとってはとても心強いことです。
このようにCtoCビジネスを広げていこうとする流れに対して、全国的な基盤があるというのは、大きな意義があると私も考えています。
ありがとうございます。
前半の話の中でもCtoCや助け合いとかというのは、大切だと思うのですが、そんな環境でも、なかなかCtoCが認めづらい部分もある、ということですよね。
そうですね。ただ、チャレンジしてみようというプレイヤーが非常に増えているので、新しいアイデアや事業を思いついたときに、壁打ちしながら進んでいくことはとても大切だと思います。特に、行政や法規・規制といったところを考慮する際、窓口となる方々からは「とにかくダメだ」という表面的な反応が返ってくることが多いのも事実です。それでも、オルタナティブというか、いろいろな選択肢を提案していくことで、現状の枠組みの中でも可能な道筋を探っていくというのは重要なことです。
こういった東北のような地域では、知見を積み重ねたり、ひとつ出来た事例をみんなで作っていくことが、大きな次の力になっていくと思うので、そういう「ちょっとチャレンジしてみよう」という方々と一緒に、いわば共に“戦っていく”関係性が生まれれば、日本もさらに次のステージに進んでいけるのではないかと感じています。
ありがとうございました。
私たちもさまざまなロビイングや、そういう会議をしていただけるようにもしつつ、その背景で我々自身が、成功事例や、実際に喜んでいただいている事例を積み上げ、それぞれの企業が力強く成長していないと、説得力にも欠けてしまうので、そういう意味でも一層がんばっていきたいですね。そして、世の中を変えていけるといいなと、あらためてお話を伺いながら感じました。
ありがとうございます。
我々も、巻組自身も、もっと力をつけていきたいと思っていますし、東北の皆さんとも一緒に、成長していければいいな、という風に思っています。
では、本日は東北支部長巻組の 渡邊さんにお話を伺いました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。