SFレポート(2):世界各地の「シェアリングエコノミー協会」(前編)
こんにちは。シェアリングエコノミー協会事務局の二宮です。
前回の記事からずいぶん時間が経ってしまいました。5月にサンフランシスコで行われた “Marketplace Risk Management Conference” 、今回はその模様をお伝えするSFレポート第2弾をお送りします。
SFレポート第1弾はこちら。
業界団体は続々と
今回の記事では、カンファレンスで出会った、世界各地の「シェアエコ協会」についてご紹介したいと思います。様々な国で、徐々に規制や安全性の問題が大きくなるにつれ、業間団体を作る動きが始まっています。これまで当会では、アジア圏の団体と関わることが多かったのですが、今回はそれ以外の地域の団体と知り合う新たな機会となりました。
今回は、2日間の “Marketplace Risk Management Conference” (アメリカの事業者が中心のカンファレンス)に付随する形で、 “Global Summit” という各国の業界団体の関係者限りのイベントも行われました。Global Summitでは、アメリカ、ヨーロッパ、オセアニア、アジアの各国からそれぞれの団体の取り組みや、各国の市場状況についてプレゼンテーションがありました。
今回は、Global Summitに紹介された、各国の団体の概要や特徴、取り組みについてお伝えします。
Marketplace Risk Management (アメリカ)
まずは、今回のカンファレンスの主催者でもあるアメリカの “Marketplace Risk Management” 。
前回の記事でもお伝えの通り、MRMは、近年のプラットフォーム型ビジネスのリスクの高まりに関して議論するためのフォーラムです。今回のようなビジネスカンファレンスのほか、教育プログラム(Boot Camp)やウェブセミナーを開催し、業界のリスク管理力の向上に務めています。
今回のカンファレンスも、AONなどの大手保険会社や、オンライン本人確認などの様々なリスク管理サービス事業者がスポンサーでした。シェアサービスの事業者も、Airbnb、Uber、Lyft、TaskRabbit、Upworkなどの大御所から様々な新興サービスまでが参加者に加わっていました。
アメリカでは、シェアリングエコノミーに限らず、いわゆるインターネットを通じた「プラットフォーム型」のサービスに責任を求める声が強まっています。ユーザー(利用者や労働者)保護の議論が加熱する中、そのリスクをいかに回避できるのかについて情報交換がされていました。
Uberドライバーは「従業員ではない」と米労働関係委員会が裁定 | TechCrunch Japan
Sharing Mobility Association (中国)
中国からは、サイクルシェア大手のMobikeの担当者が参加。彼は、モビリティのシェアに関する団体(中国交通運輸協会のシェアモビリティ部門)でも活動をしています。
中国では、まさにシェアリングエコノミーは拡大市場。発表の内容も、市場の成長率や、シェアバイクの展開規模(台数や利用回数など)に関するものがほとんどでした。
規制に関するトピックとしては、海外展開した際のストーリーが興味深いものでした。Mobikeは昨年から今年にかけて中国国外の市場から撤退を進めているのですが、その理由が現地当局と対話ができる人材が確保できなかったことであると説明されていました。現地と母国(中国)の両方の言語・文化を理解し、政府や自治体を交渉できる人材を確保することはなかなか困難であったようです。
自転車シェアの中国Mobike、海外市場からの後退を親会社Meituanが認めた | TechCrunch Japan
中国の担当者が何度も強調したのは、「シェアリングエコノミーが中国の市民の生活のベースを支える」ということ。巨大な人口を抱える中国では、所得の格差などにより、生活のベースとして必要な移動手段などにアクセスできない市民も多くいるようです。全ての市民に対して安価でアクセスしやすいサービスを提供するシェアリングエコノミーには、社会的な意義のあるものであると強調すると同時に、だからこそ中国政府もシェアリングエコノミー推進に協力的だと話していました。
余談ですが、当会は2018年に中国国家情報センターと連携協定を締結しており、情報交換などを行なっています。その際にも、中国の市場成長の説明は桁外れで驚かされています。
シェアリング エコノミー協会、 中国政府シンクタンク 国家情報センターと シェアリングエコノミーの普及に向け連携協定を締結 | シェアリングエコノミー協会
Sharing Economy UK (イギリス)
イギリスからは “Sharing Economy UK“(SEUK)が参加。SEUKは、日本のシェアリングエコノミー協会と同じように、シェアリングエコノミーの事業を行う企業が集まって作った業界団体。
実は、当会とSEUKは、昨年から共同で PAS(公開仕様書)の作成に関わってきました。当会が運用しているシェアリングエコノミー認証マークも、SEUKが運用する “Sharing Economy TrustSeal” を研究して生まれたものです。
英国・シェアエコ「PAS(公開仕様書)」が公開! | シェアリングエコノミー協会
この TrustSealは、オックスフォード大学のビジネススクールが協力したり、アドバイザリーボードに(シェアリングエコノミー業界では有名な)レイチェル・ボッツマン氏が入っていたりと、鳴り物入りで始まった制度。
ただ、最近では CBI(日本でいう経団連のような団体)傘下に入り、また CBI のリソースの多くが EU脱退(ブレグジット)に割かれる中で、なかなか思うように活動ができないという現状も垣間見えました。SEUKに限らずどの団体も、資金繰りや(特に政策やテクノロジーに詳しい)人材の確保など、組織運営には苦労をしているようでした。
なかなか拡大に向けて動きがとれない TrustSeal ですが、イギリス国外の企業にも取得を推奨するなど、グローバル化を目指しているとのこと。日本の認証マークの運用体制にも興味を持っていただき、現在日本が幹事国として進めている国際標準化(ISO化)などを通じて、国際的な安心・安全のルールづくりで協力することで意見が一致しました。
Collaboriamo! (イタリア)
イタリアからの参加団体は “Collaboriamo!“(「協力しよう!」の意)。
Collaboriamo! は「スタートアップビジネスの創発・拡大」「プラットフォーム事業に関する教育」「コミュニティの醸成」を行なっている団体。2013年〜2017年まで “SHARE ITALY” というイベントを開催していました。
Home – SHARITALY 2017 | 5-6 DICEMBRE | MILANO
Collaboriamo! の活動は、企業の爆発的な成長よりも、コミュニティをベースとした持続可能なビジネス作りを志向しているようでした。アメリカや中国の参加者が「成長」や「顧客」といったテーマを中心にする中で、ヨーロッパの団体は主に「繋がり」や「コミュニティ」という視点からシェアリングエコノミーを捉えているように感じました。
欧州で左派が「シェアリングエコノミーが死んだ」と言うワケ — 藤井 宏一郎
少し話がそれますが、2年前に当会も参加したフランスの “OuiShare Fest” の記事でも、同じ点が指摘されています。同じ「シェアリングエコノミー」という言葉で表現されていても、サービスの哲学や設計方法によって、その性格がまったく違うものになることがあることが分かります。
おわりに
今回の前編では、アメリカ・中国・イギリス・イタリアの団体をご紹介しました。後編では、アイルランド・デンマーク・シンガポール・マレーシア・オーストラリアの団体についてお伝えする予定です。
どの協会も近年急ピッチで組成されたばかりで、シェアリングエコノミーを巡る規制やルールづくりの動きが加速していることが伺えました。その中で、日本の認証制度の仕組みや、国際標準化の動きについては、色々な質問が寄せらせました。正直な話、数ある団体の中でも、日本の団体のように会員数が多く(2019年8月時点で296社)、また組織立って活動しているところがないように見受けられたことが印象的でした。
日本の団体として、今後も世界各国の団体との対話を図りながら、日本のシェアリングエコノミー事業者の成長・発展や、世界のシェアリングエコノミー市場の整備に寄与する余地は大きいと感じました。今後、日本の業界団体としてどのように会員企業の皆さんのサポートができるのか、色々な可能性を探っていきたいと考えています。