SFレポート(3):世界各地の「シェアリングエコノミー協会」(後編)
こんにちは。シェアリングエコノミー協会事務局の二宮です。
5月にサンフランシスコで行われた “Marketplace Risk Management Conference” について連載形式でお伝えする「SFレポート」。第3弾は、前回に引き続き、世界各国で近年誕生している「シェアエコ協会」のご紹介記事(後編)です。
前編はこちら。
前編では、アメリカ・中国・イギリス・イタリアの団体を取り上げました。後編では、アイルランド・デンマーク・シンガポール・マレーシア・オーストラリアの団体をご紹介します。
Sharing Economy Ireland (アイルランド)
イギリスのお隣、アイルランドからは “Sharing Economy Ireland” の代表が参加。
こちらはシェアエコのプラットフォーム事業者によるIT業界団体。2016年に設立され、AirbnbやUberのほか、欧州のCtoC食品配達サービス大手 Deliveroo、業務用のLED電球のサブスクリプションサービス “UrbanVolt” など15社ほどが加盟しています。
Sharing Economy Ireland の主な活動は、大きく「啓発」「基準の設定」「規制など業界共通の課題への対応」。このうち「基準の設定」については、イギリスの Sharing Economy UK の “Sharing Economy TrustSeal” を参考にした制度を運用しているとのこと。
ただし、Sharing Economy Ireland も大きな団体ではないため、組織だって大規模に活動することに苦労しているようでした。一方で、代表がエジプトを始め各国のプロジェクトに関わっていることもあり、国際的な連携には積極的。国際標準化でも、日本や各国と協力できそうだとポジティブな反応を頂きました。
Platform Economy Association (デンマーク)
北欧・デンマークからの参加団体は “Platform Economy Association“(FPD)。
FPDも、プラットフォーム運営企業やその関連サービス提供企業による業界団体。デンマーク初のサービスを中心に、10-15社ほどが加盟しています。具体的には、コペンハーゲン発の電動シェアサイクル “Donkey Republic“、タスクのオンラインマッチングサービス “meploy“、デンマークらしいトレーラーのシェアサービス “NaboTrailer” など。ちなみに、FPD代表が運営する企業は、オンラインでの本人確認・相互評価サービスを提供する “Deemly“。
FPDもまた、日本の認証制度と似た “Ansvarlig platformsøkonomi“(「責任あるプラットフォーム」の意)を運営しています。規制遵守や納税への対応、ユーザーの安全確保などの項目に関して、プラットフォームが基準を満たしているか審査します。世界各国でプラットフォームに対する業界側からの自主的な基準作りが進んでいることが伺えます。
余談ですが、今年6月に日本で行われた、国際標準について議論する第1回ISO会議にもデンマークの政府代表が参加。FPDも、政府からシェアリングエコノミーの現状に関してヒアリングを受けていると連絡がありました。
Sharing Economy Association Singapore (シンガポール)
続いて、シンガポールからは “Sharing Economy Association Singapore“(SEAS)。
SEASは、2014年に設立された、シェアエコ業界では老舗団体。36団体が加盟しており、他の団体に比べると規模も大きめ。医師への相談サービス “Doctor Anywhere“、東南アジアのライドシェア大手 “Grab“などが加盟しています。
SEASは以前から日本の協会と交流があり、たびたび情報交換を行なってきました。なお、SEASの代表は、香港発祥の配送サービス “GOGOVAN” のシンガポール代表でもあります。
シンガポールは、民泊やシェアサイクルを始め、比較的規制が厳しい国として知られています。そのような環境下で、規制に触れない範囲で様々なサービスが育ちつつあるとのこと。その一方で、シンガポールの当局は国際的なルール作りに乗り気で、SEASはそのアドバイザーとして関わっているとのことでした。先述のISO会議にも、SEASの代表が出席されました。
Malaysia Digital Economy Corporation (マレーシア)
マレーシアからの参加者は “Malaysia Digital Economy Corporation” (MDEC)の代表。MDECはデジタル関係の活動を行う政府系の団体で、その中のシェアリングエコノミー担当者が参加されていました。
MDECの活動は、主にシェアリングエコノミーを新たな「働く場」として捉えることから始まっています。その集大成が “eRezeki“。オンラインで働くことのできるプラットフォームを横断してありとあらゆる仕事を検索できるという、まさに「プラットフォームのプラットフォーム」。100社以上(そのうち86社が国内企業)との連携をベースにしながら構築したシステムだそうで、UI/UX的に見てもなかなかの使い心地。
プラットフォームの統合がM&Aや事業譲渡などによって行われることが多い中で、このような傘となるプラットフォーム作りを公的な団体が行うのは面白いケースだと思います。
The Sharing Hub (オーストラリア)
最後に、オーストラリアの “The Sharing Hub“。こちらも、20社ほどのシェアエコ事業者による団体。CtoC型の荷物配送サービス “Zoom2u“、CtoC型のペット預かりサービス “Mad Paws“、キャンピングカーのシェアサービス “Camplify“などが加盟しています。団体代表の経営するサービスは、倉庫・駐車場の空きスペース活用サービス “Spacer“。
そこまで規模が大きな団体ではないため恒常的な活動はほぼないとのことでしたが、2018年にはシェアリングエコノミーの推進に活躍した個人や企業を表彰する “Australian Sharing Economy Awards” を開催したとのこと。日本でも各プラットフォーム企業が自社サービスのユーザー向けに表彰制度を設けていますが、シェアリングエコノミー業界全体で実施するのもまた違った面白さがあると感じました。
国際的な競争?それとも連携?
日本の協会として、これまでアメリカのWebメディア “Shareable“、オランダの “ShareNL“、韓国の “Sharing Economy Association Korea” のほか香港・台湾・シンガポールのシェアリングエコノミー協会との接触はありましたが、今回のカンファレンスに参加したことによって、アメリカやヨーロッパの団体と繋がりができました。どの代表も普段から「シェア」な環境に接しているからか良い人ばかり。今後の連携に向けて話が弾みました。
ところで、海外の団体や企業との新たな接点は、どのように日本のシェアリングエコノミー推進に活かせるのでしょうか?それを考えるにあたっては「競争」と「連携」の両方の側面から考えていく必要があると考えています。
まずは「競争」についてですが、これはいわば「企業 対 企業」の視点です。当たり前の話ですが、海外からサービスが参入する場合、それと似た在来サービスとの間で競争が生まれます。このような競争関係を踏まえて、適切に海外とのアライアンスなどを進めていく必要があります。
実際、ある国でサービスを展開するCEOから「アメリカや中国の巨大プラットフォームが自国市場に進出する前に、日本の同業者とのアライアンスを進めたい。同業者を紹介してほしい」という相談を受けました。メガプラットフォームに対する危機感は、様々な国で高まってきています。協会の会員企業には海外展開を狙うフェーズにいる企業が少ない現状はありますが、各国の団体との繋がりを通じて事業者同士のコラボレーションを少しずつ起こしていければと考えています。
海外事業者との競合は、特にユーザーが国をまたぐ「観光業」や「クラウドソーシング」などの分野で起こりやすいのではないでしょうか。
その一方で「連携」についてですが、これは「政府 対 企業」の視点です。どの国の団体でも、直面している課題やそれに対する活動は似ています。例えば、シェアリングエコノミーの信頼性を高める審査制度を運用している国だけでも、イギリス、アイルランド、デンマークがあります。そのほかの国でも、政府による一律の規制がかかる前に、ソフトロー的な手法でルール作りを進める議論が広まってきています。
そのような中で、お互いに成功事例を共有したり、共同で取り組みを推進したりする余地は大きいと考えられます。シェアリングエコノミー全体にかかるルール作りという意味では、今年の1月から日本主導で始まった国際標準化に対する関心が高いようでした。アメリカやデンマーク、オーストラリア、マレーシアの団体が、国際標準化の会議に参加するべく動いていくことになりました。
シェアリングエコノミーの個別分野についても、成功事例の共有などを通じて規制当局との対話を加速させる余地がありそうです。例えば、日本では禁止されているライドシェア(CtoC型のタクシーサービス)が解禁されている国もあり、個々の事例を分析していくことで、規制緩和やより良い規制作りに繋がるかもしれません。そのような中で、まずは各国での事例を集めるために、共同で調査を行なったり、書籍を出版したりすることが有効ではないかという意見が、いくつかの国の団体から寄せられています。
日本だけではなく、各国でもシェアリングエコノミーは比較的新しい概念で、それに関する課題解決も手探りで進められています。「国が違うから」「競合相手だから」というのではなく、同じ「シェアリングエコノミー業界」としてどのように協調できるかが問われているように思います。