デジタル改革担当大臣に「デジタル社会のビジョン実現に向けた提言」を提出しました

2021年8月23日、当協会常任理事の石山が、平井卓也デジタル改革担当大臣へ、以下内容の「デジタル社会のビジョン実現に向けた提言」を提出しました。
当協会では、引き続き安全・安心なデジタル社会の実現に向けて取り組んで参ります。

1.シェアリングエコノミーがデジタル社会に寄与する役割

シェア(共助・共有・共創)の社会浸透によって実現される持続可能な共生社会=Co-Society

  • 近代社会の「分業・個別化・画一化」的価値観から、「分かち合い・共有・多様性」の価値観・社会基盤へ
  • シェアが実現する4つのサステイナビリティ
    • 地球環境の持続可能性
      • 既存資源の有効活用により地球環境に対する負荷を低減
    • コミュニティ・地域経済の持続可能性
      • 個人と個人がつながることにより地域コミュニティを再生・活性化
      • 住まいや働き方の自由度が高まることにより関係人口が増加
    • 経済・財政の持続可能性
      • 独立した経済圏や地域経済の創造
      • 公共施設の有効活用やシェアサービスによる公共サービスの代替により財政負担を軽減
    • 災害 / コロナのような有事の際の社会システムのオルタナティブ
      • 災害発生時に必要な宿泊場所の確保、円滑な移動の実現、復興資金の確保などの問題を解消し、
        社会のレジリエンスを高める
    • 多様な生き方を実現できる社会
      • 多様な価値観や個性に基づいた、暮らし方・働き方・ライフスタイルの選択肢がある・認め合える状態

 

2.提言

(1)シェアリングエコノミー推進基本法の立法 

 デジタル庁は、目指すべきデジタル社会について、「デジタルの活用により、一人一人のニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」というビジョンを掲げている。

 シェアリングエコノミーが実現するのは、まさにそのような、国民一人ひとりが多様なニーズに合った選択をすることができる社会である。そして、個人の多様なニーズに応える社会は、行政や企業の力だけで実現することはできない。ニーズを持つ個人とそれに応えられる個人とを結びつけるシェアリングサービスを通じて個人間の取引が活性化されることによってはじめて実現されるものである。

 ここ数年でオンラインサービスの多様化と拡大が進むにつれ、シェアリングエコノミーの認知・利用も大きく広がった。しかし、いまだ、広く日本全国の国民の多様な生活ニーズに応えられるほどの普及には至っていない。

 その大きな要因として、①国及び地方公共団体を挙げてシェアリングエコノミーの推進に取り組んでいくという大方針が法律上明確に位置づけられていないこと、多くの法律や制度が個人間の取引を想定してつくられておらず、個人をサービスの提供主体とする様々な新しいビジネスモデルの妨げとなっていること(*)、が挙げられる。

(*)ミールシェア(食品衛生法)、ペット版民泊(動物愛護法)、倉庫シェア(倉庫業法)など

 

 このような中、より一層シェアリングエコノミーの浸透を図り、デジタル社会ビジョンの実現につなげていくため、以下を骨子とするシェアリングエコノミー推進基本法の立法化を本格的に検討して頂きたい。

  • シェアリングエコノミー推進の社会的意義
  • シェアリングエコノミーを活用し、国民の多様なニーズに応えられるデジタル社会を実現するためには、商取引における販売・提供主体としての個人の参画を促す必要があること
  • 国及び地方公共団体は、シェアリングエコノミー推進に向けた基本計画を策定し、シェアリングエコノミーの推進に取り組む責務を負うこと
  • 事業者は、安全・安心なシェアリングエコノミーの利用環境を構築すべき責務を負うこと
  • 安全・安心なシェアリングエコノミーの利用環境整備に向けて、国及び地方公共団体は、シェアリングエコノミーモデルガイドラインの周知啓発に努める責務を負うこと

 

(2)安全・安心なデジタル社会の実現に向けて

 シェアリングエコノミーの認知・利用が大きく広がった一方、シェアリングサービスにまつわるトラブルも増加しており、「シェアリングエコノミーの安全・安心」にも注目が集まるようになっている。デジタル社会の目指す方向性案の基本3原則にもあるよう、シェアリングエコノミーを「国民が信頼でき、安全・安心に利用できる」ために、「シェアリングエコノミーの安全・安心」について、以下の取組みを検討いただきたい。

 

 ① ODRの推進

 シェアリングエコノミーで行われる取引については金額が少額のものも多く、従来の裁判手続等は、時間的・経済的コストの観点から選択しづらい紛争解決手段となっており、その結果、ユーザー間の不適切な交渉において不適切な解決が図られている場合も見られる。

 そこで、ユーザーが迅速かつ円満にトラブルを解決できるよう、裁判外でオンラインを通じ紛争を解決するODR(Online Dispute Resolution)の活用が期待され、ODRを導入する事業者も現れている。しかし、そもそも国内で議論が始まったのが2年ほど前で世界の状況と比べると5年ほど遅れている状況であることに加え、匿名性の維持や強制執行の担保、弁護士法上の問題等について課題があるため、オンライン上で迅速に実効性のある紛争解決が図れるようなデジタル化時代に即した紛争解決制度であるODR促進のための仕組みの構築・義務化等について検討いただきたい。

 尚、EUは、ODR規則(Regulation on consumer ODR No 524/2013)を定め、「オンラインの販売またはサービスの契約に従事する業者は、その Web サイト上において、ODRプラットフォームへの電子的なリンクを提供しなければならない。」などとしてオンラインプラットフォームに対して義務を課し、多言語に対応したODRプラットフォームを提供し、実際に運用して実績も出ている

 

 ② デジタルIDの社会実装

 オンラインでのマッチングを前提とするシェアリングエコノミーにおいて、安全・安心を担保するためには、社会基盤のデジタル化が極めて重要である。スウェーデン、イギリス、シンガポールなど諸外国の先行事例を参照しつつ、個人の様々な属性情報を包含する「デジタルID」の社会実装に向け、関係者を巻き込みつつ検討を加速して頂きたい。

(例えば、現行法上、在留外国人の「在留カード」は原本を対面で確認することが求められるが、運用コストを鑑みると現実的には困難であり、今後も増加が見込まれる外国人就労者の活用が事実上阻害されている。)

 

 ③ 個人に対する社会的与信のあり方の見直し

 シェアリングエコノミーなどを活用してフリーランスとして働く個人への社会的与信は、いまだ低い状況にある。たとえば、クレジットカードの審査が通りづらいなど金融サービス上での与信は低く、サービスで積み上げた実績などの情報を転職の際に活用することも難しい。このような状況は、個人の働き方の選択肢を狭め、国民一人ひとりがそれぞれの価値観やライフステージに応じて自分らしい人生のあり方を追求することの妨げとなっている。

 そこで、多様な個人を包摂するデジタル社会の実現に向けて、マイナポータルやベース・レジストリに、個人がシェアリングエコノミーを通じて得た所得や実績などの情報を接続することも含め、個人に対する社会的与信のあり方の見直しを検討して頂きたい。

 

(3)真の共生社会の実現に向けたシェアリングシティ推進

  2017年から官民をあげて推進してきた、地域課題をシェアリングエコノミーで解決する事例作り「シェア・ニッポン100 ~未来へつなぐ地域の活力~」は、2020年度において、累計115団体、135の活用事例を創出してきた。

 昨年7月には当協会内に「シェアリングシティ推進協議会」を創設し、地域課題別に設置したWGにおいて、本年の成長戦略の中で示されている通り「地方公共団体等とともに公共サービスとしてのシェアリングエコノミーの新たな活用モデル」(以下、シェアリングシティ)の検討を進めている。

 一方、自治体の課題解決手法としてのシェアリングエコノミーに対する認知や理解度、ITスタートアップとの官民連携の経験に自治体ごとに大きな差があることがシェアリングシティ推進の課題となっている。

 そこで、デジタル庁創設の基本理念で示されている「ゆとりと豊かさを実感できる国民生活の実現、国民が安全で安心して暮らせる社会の実現」に向けて、地域を支える共助の仕組みとしてシェアリングエコノミーを実装し、真の共生社会を実現するために、以下の取組みを検討いただきたい。

 

  • デジタル庁が企画立案・推進する政策や方針において、地方公共団体等によるデジタル技術を活用した持続可能な公共サービスの選択肢の一つとしてシェアリングエコノミーを位置づけること
  • 自治体による官民連携のシェアリングシティ推進を促すため、自治体内にシェアリングエコノミーやITスタートアップへの理解があるデジタル人材の確保・育成を進めること
  • シェアリングシティの認知向上と更なる横展開に向けて、自治体によるシェアリングシティのベストプラクティスを表彰するアワードを創設すること

 

以上